夢で逢えたらほら,どんな言葉で君を抱き寄せる…
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謹以此文献給神谷さん,慶祝回帰後第一次公開節目
G線上の猫 ?
原作:宮城とおこ
CAST
神谷浩史:成川理也
森川智之:池田篤志
檜山修之:香坂遥人
平川大輔:成川佐紀
G線上の猫 ?
原作:宮城とおこ
CAST
神谷浩史:成川理也
森川智之:池田篤志
檜山修之:香坂遥人
平川大輔:成川佐紀
TRACK 01
佐紀:久しぶりだね、僕の可愛い理也。
理也:…佐紀さん…
佐紀:しばらく見ないうちに大きくなって〜さあ、キスさせておくれ〜
理也:やめてください!
佐紀:おやぁ、何て連れない子だろう?成田に着くなり飛んできたのに。その態度はどうだい?
根本:佐紀さんが理也君にまず会いたいって言うので、直で来ちゃったんですよ〜
佐紀:根本、君は実に有能なマネージャーだ。
理也:(僕の従兄成川佐紀さんが、New Yorkを拠点に活動してピアニスト。今回は日本でコンサートがあるため、お目付け役の根本さんと一緒に僕の所にやってきた。)
佐紀:ねぇ、理也。今回の帰国はコンサートとは別に。もう一つ重要な目的があるんだ。
根本:ところで、理也君、今度桐峰学園の定例演奏会に出るんだってね!
理也:…あ…はい…根本さん。
佐紀:そうか。じゃあ、僕もぜひ行かせてもらうよ。
理也:…は…で、今日は僕に用があったんじゃないんですか?
佐紀:いや。とりあえずは御機嫌伺い。おじさんもおばさんもアメリカだろう?理也一人でいろいろ大変じゃないかと思ってね。
理也:いぇ…別に。お手伝いさんに入ってもらってるから。…それより来るなら来るで電話の一本くらい入れてください。
佐紀:ん?したよ、おとといの朝。理也電話に出たじゃない。
理也:…えっ…あ、…そう…でしたね…
佐紀:学校、楽しい?一人で日本に残ったこと後悔してない?
理也:…それ…お父さんに何か言われたんですか?様子見て来いとか。
佐紀:おや怖い顔!違うよ。僕が理也のこと心配でしかたないんだ。この手のひらの傷は?指の付け根を買ったナイフで切ったんだっけ?一人でいて、二度とこんなことしないって言いされる?君はバイオリニストとして一生食べてくつもりなんだろう?違うの?それ以外に君の選択肢はないはずだよ。
理也:…わかってます。
佐紀:…いい子だね。
理也:…あの…僕…お茶を入れて来ます。
根本:どうですか?理也君。
佐紀:全然普通じゃないね。僕は理也に電話なんかしてないもん。
根本:じゃ、鎌をかけたんですか?
佐紀:あぁ。普通だったら、電話なんかなかったって否定するでしょう?否定できないのはさ、自分の記憶にあやふやな所があるかだって。
根本:佐紀さん、本当にあの話進めちゃって大丈夫なんですかね?理也君が自分で自分の指を切ったのだって、父親の成川先生が無理やり留学させをしたから。
佐紀:ふう…おじさんちょっと大人気ないからなあ〜理也を思い通りにしないと気が済まないんだよ。でもねぇ、しかたないね。成川の一族は音楽家の家系だから。
根本:えぇ、成川先生も…著名なバイオリニストですし、理也君も小さいころから天才バイオリニストとして、将来を期待されていますからね。
佐紀:うん。他の選択肢はないの。あの子は成川では異端だから、結果を出すことでしか、この世界で居場所を得ることはできないんだよね。
女1:さよなら。
女2:さよなら。
杉浦:…なるちゃん?どしたの?何かボーっとしてなかった?
理也:杉浦先輩…(定例演奏会のバイオリン専攻代表は僕に決まった。香坂先輩が自ら辞退したからだ。)
杉浦:でもさあ…先生たちも嫌な感じだよね。香坂をなるちゃんの代役に立てるなんて。
理也:(僕が精神的に不安定なのを見越してのことだろう…当日になって、何かあったら困るから…)
杉浦:ねぇ、大丈夫?なんだかちょっと顔色悪いよ?疲れてるんじゃない?
理也:いえ…大丈夫です。(だんだんひどくなってる気がする。自分でもいつ記憶が飛んでるのかわからない…あの夜から、香坂先輩におそわれそうになった…あの夜からは…)
(理也:ちょっと…何を…?
香坂:あんた、もしかしなくてもこうゆうこと初めて?なら教えてやるよ。…あんたが知らないだけで、バイオリンなんかよりはまれることがあるってこと。)
香坂:どうも。
杉浦:ちょっと!香坂遅い!代役っていっても練習にはちゃんと来てって言ったのに!
香坂:来ただろうちゃんと。
杉浦:もう…あ、やだ!わたしたら楽譜教室に置いて来ちゃったよ。取りに行って来る。
理也:(あっ…杉浦先輩…この人と二人だけにしないで!)
香坂:ふう…
理也:あっ…
香坂:怯えるなよ。なぁ、鍵返して来いよ。
理也:(僕は池田さんの家の合鍵をまだ持っていた。この鍵は返さなきゃ、逃げ場うつくっちゃダメだ、流されてちゃダメだ。今前を見ないと…)
理也:篤志!
池田:理也?(理也の中には、二人の理也がいる。今俺の前にいるのは兄の方。まるで真っ黒い野良猫だ。理也は俺の家の玄関先で左手を切って倒れていた。それ以来、俺はこいつらのことがほっとけないでいる。)こんな道端で待ってないで、部屋に入ってればいいのに、鍵あるだろ。
理也:これ返しに来た。もういらないから、それ。
池田:俺んちの鍵じゃないか?
理也:あんた、あいつの方と話しただろ?あいつに「いつでも来ていい」って電話で言った。俺、あいつとは話すなって言わなかったっけ?
池田:(あいつ?…あ、弟のことが…あっちは、真っ白い迷い猫だな。)…あれ?何であっちに言ってことお前が知ってるんだ?
理也:俺は全部わかってるんだ。俺じゃない間、あいつが何をやってるかも全部。
池田:確かに言ったよ。でもそれは、どっちか片方に向けて言っだんじゃない。ていうか俺、お前達のこと別々に分かて考えたことないぜ。
理也:あんたバカじゃない?俺は俺だし、あいつはあいつなの!一緒にされたくないって!何でわかんない訳?!あのねぇ、俺はあいつのやってることみんな知ってるけど、あいつは俺の存在すら知んないの!この意味わかる?何も知らないんだったら、あいつ別に要らないじゃん!
池田:…待てよ。何がそんなに気にいらないんだ?
理也:あんたって、あいつの方がいいわけ?
池田:あのな、俺はどっちがどうとか言ってないだろ?
理也:ふうん〜じゃあ面白いこと教えてやるよ。あいつさあ、男と寝たんだぜ。ちょっかい出されてる学校の先輩のお家にのこのこ行ってうっかり食われちゃいました。バッカじゃねぇの?
池田:…ふう、嘘だろ?その話。
理也:とにかく俺は、二度とあんたには会わない!あんたのやったことは裏切りだ、俺はそういうの許せるほど心広くないから!本当にここへはもう来ない!じゃあね!
池田:…まいったなぁ。(捨て台詞を吐いて通いの猫は帰って行った。実際のところ、食われた食われないの話も本当なのかどうか怪しいどころだし。…理也は、本当の気持ちと反対のことばっかり言っている。そんな気がする…)
TRACK 02
理也:演奏会の当日だというのに、鍵がない…記憶が飛んでいる間になくしたのが、それとも…怖い…自分でまたこんな…手を切るようなことしなら…切ったと、しばらく指に違和感があったし、練習に打ち込むことで、その不安を乗り越えてきたんだ——
(池田:もう一人が使う気になるかもしれないから、気休めだと思って、持っときな。)
理也:そう言って、鍵を渡してくれた池田さん——…池田さんは、僕の知らない何かを知ってるんだろうか…?誰にも頼れないくせに、本当は不安で怖くて…僕はこれからどうしたらいい…?…いや、今この瞬間僕は僕でいられた。あとはやるだけだ、やるしかない…他に僕の居場所はないんだから…
香坂:ふう…そろそろ会場に戻んないとまずいか…ま、成川の青い顔見れるだけで十分面白いんだけどな。
池田:なっ…あ、すいません、演奏会の会場ってどっち行けばいいんですか?今日桐峰学園の音楽科で演奏会があるって知ったもので。…あは、あの…別に怪しい者じゃ、知り合いの子が出るって学校のホームページに載ってたから聞いてみたんだけど、来ないで迷ったっつか…
香坂:ホールは大学の方。そっから道なりに行けば大学の方に出るから。
池田:あ、どうも…(演奏会来ちゃった…かなり場違いみたいだ…会って話せるかどうかわからないけど、何かの気かけになるかもしれない。今の子…音楽科の生徒かな、だよな…理也より上か…)
(理也:あいつさあ、男と寝たんだぜ。)
池田:相手は学校の先輩とか言ってよなぁ…あんなんだったりして…やたらめったらな美形だったし、ふ〜なんてな…
女:杉浦先輩?何やってんですか?ドアに耳をしあってて。
杉浦:成川佐紀だよ!あの成川佐紀が控室にいるんだって!
女:て中の話を盗み聞き…ふうん〜先輩でけっこうみいはですね〜
杉浦:しっしっ!
女:はいはい…
佐紀:先生方、お久しぶりです。今日はご挨拶がてら、うちのいとこ殿を見に参りました。
先生:あ…そうですか。どうぞお掛けんりください。さあ、マネージャーさんも寛いでくださいね。
根本:じゃ、お言葉に甘えて。
佐紀:ところで、理也は今どこに?
先生:外の空気を吸いに行ったとかで…もうすぐ戻ると思います。
佐紀:それはちょっとよかった。理也はいないうちに先生にお話が…
先生:…なんでしょうか?
佐紀:学校での理也の様子はどうなんですか?
先生:えっ…はぁ…調子のいい時と悪い時があって…いい時はまじめに学校に出てきて、きちんとしてるんだが…悪い時は無断で欠席したり粗暴な態度を見せたり…
佐紀:つまり…まるで多重人格のようだっと。
先生:えっ…えぇ…まぁ…
佐紀:うん…ありがとうございました、先生。
先生:…いぇ…
根本:そういうのって、子供の時の体験の根っこにあるとか言いますよね。何か心当たりあります?
佐紀:まぁ…おじさんも変わった人だしなぁ〜
根本:成川先生は?
佐紀:押さない理也にバイオリンの練習をさせてた時、理也が上手にひけないと、自分の弓でぶつんだって…
根本:弓で…?
杉浦:…!なるちゃんが?何かあたしまずいこと聞いちゃったかもん…
理也:杉浦先輩?何やってるんですか?
杉浦:なっ…なるちゃん!!なっ…成川佐紀が…来てるんだけど…
理也:ふう、佐紀さんが?そうですか、ちょっと行って来ます。
佐紀:おぉ理也!
理也:本当に来たんだ…来ないでいいのに…
佐紀:何を言ってるんだ!この天才ピアニストがわざわざ励ましに来たのに!
根本:ごめんね、理也君。迷惑だったら遠慮しないでそう言ってね〜
佐紀:何だと、根本?
先生:それにしても、成川先生もさぞお喜びでしょう?理也君が代表に選ばれて。
佐紀:…ん、ん——
理也:佐紀さん、はっきり言ってくれていいです。言ってください。
佐紀:…まぁ、僕も嘘をつくのがヘタでね。おじさんはおじさんで歯に衣着せないし…成川の血かな。学校の演奏会に出たって何ももならない、理也が精神的に不安定な子でなければ、とっくにデビューしてるのに無能な子だって。
根本:…佐紀さん!あの、理也君…
理也:…いいです、別に。あの人が何を言おうと…気にしませんから。
佐紀:ねぇ、理也。ステージが大きいか小さいかなんて大した問題じゃない。演奏家として生きるならば、どこでだって失敗はできないんだ。そして君は、そこに立ちために何人もの人間を蹴落としてきている。おじさんが「何にもならない」と言い捨てた、小さな演奏会だとしてもね。いいかい?君の精神状態がどうあろうと、常に結果が全てだ。君が失敗することを望んでる人間がいることを忘れるな。
理也:僕…失敗なんてしません。
理也:(自分でもわかってる、失敗はできない。こんな所で失敗する訳にはいかないんだ。)
香坂:…おい。
理也:香坂先輩…
香坂:おいおい…顔真っ青だぞ。
理也:…失礼します。
香坂:待ってよ。
理也:…なっつ、何…日等のほうつまんでるんですか!
香坂:緊張してるんの?
理也:…し…してません!
香坂:今度は何赤面してるんだ?ま、がんばんな。
理也:…えっ…頑張れだって…
TRACK 03
佐紀:ふうん〜悪くないんじゃない?
根本:驚いたなぁ、理也君のステージ初めて見ましたけど、えっらい美音ですね。
佐紀:うん、おじさん仕込みの技術は完璧と言っていい。何より音がいい。…音量はもうちょっと欲しい気もするけど。まぁ、まだ子供だしね。
根本:えぇ。
佐紀:気づいた?
根本:何ガですか?
佐紀:音程が全く狂わない、限りなく正確だ。ステージと練習室は違うんだ。ライトや体温のせいで弦の緩み方が変わる。そこまで計算して、音をとってるってわけ。まさに理也はおじさんの執念の結晶…よくここまで作り上げたもんだよ。…僕は興味があるんだ、このまま外の世界に出たら、理也はどうなるんだろうって。試してみるのは悪くない、それだけの価値が、あの子にはある。
根本:…佐紀さん、あの話を理也君に…
佐紀:もちろん今日にでも話すつもりだよ。僕は理也を迎えに来たんだから。
男:次の人理りようして。
生徒:はい!
先生:成川君よくやった!素晴らしい出来だった!
杉浦:なるちゃん?なるちゃん?何ぼう〜としてんの?
理也:…あっ…すみません…演奏が終わった終わったとって、緊張の一途切れちゃって…あの、でも左手がちゃんと動いたかどうか…
先生:そんなことはないよ!完璧だった!
理也:…そうですか…よかった…
女:あぁ、そうだわ。ついさっきあなたのことを訪ねてきた人がいて。どういう方なのかわからなかったから帰っていただいたんだけど。
理也:えっ…誰ですか?
女:大学生くらいの男の人…
理也:(池田さんか…?どうしてここに…)
理也:池田さん!
池田:理也?
理也:何で…どうしてここに…
池田:学校の演奏会があるって知って…上手なんだお前。俺クラシックとか全然わかんないからあんまり上手く言えないけど…今日は顔だけ見られたらいいと思ってたんだけど、後の席に座ったからさ。ステージ遠くてあんまり顔は見れなかった。ははは…
理也:…池田さん…
池田:…元気そうでよかった…じゃあな。
理也:待って!あっ…
池田:大丈夫か?
理也:あっ、はい…あの…鍵を…鍵をなくしてしまって…
池田:…あぁ、いいよ。あれはもう返してもらったから。
理也:…っ?僕がですか?
池田:あぁ。
理也:あの…僕返した覚えが…
佐紀:おお理也、ここにいたのか。
先生:探しましたよ。
理也:…佐紀さん…?先生…
先生:…ああ!君!一学期の時に理也君を学校から連れ出した男だろう!!
池田:げっ…あの時の先生…
佐紀:先生、この人知ってる人ですか?
先生:えぇ、この男と成川君は付き合いがあるようです。
佐紀:へえ…理也、ちゃんと紹介してくれないかな。
理也:うん…あの…池田篤志さん。以前ご迷惑をおかけしたことがあって…
佐紀:ふうん?僕は成川佐紀。理也の父方のいとこです。
池田:あっ…あの、池田です。
佐紀:ときに君、この後暇はあるかい?
池田:は?
佐紀:演奏会を終えた僕のかわいい理也のためにささやかな慰労会を催したい、ぜひ君も来てくれたまえ。
池田:…は…
理也:…佐紀さん!そっ…そんな勝手な…
佐紀:僕が決めたことだ、変更はない。理也、君は早く戻りたまえ。先生、後は頼みます。
先生:…あっ…はぁ、じゃ、成川君、ホールに戻ろう、さあ。
佐紀:ほら、理也、早く行きなさい。
理也:…はい。
佐紀:ところで池田君。
池田:…はい。僕は理也の父親から彼の様子を見て来るよういいつかっている。いわば保護者代理人だ。なので君に聞かなくてはならない、君は理也のどういう知り合いなんだい?
池田:…えっ?あぁ、実は、理也が俺の家の前で倒れてたんです…自分で指を切って…それで行きがかり上一晩泊めて、それからちょこちょこと…
佐紀:じゃあ君は、もう一人の理也を知ってる?
池田:もう一人…あぁ、はい。どちらかっていうと、そちらほうがなついてるっつうか…俺んとこ会いに来たりするし…
佐紀:なるほどね。…君は何してる人?
池田:あっ…大学生です。明慶大学経済部2年です。
佐紀:一人住まい?それともご両親と?
池田:えっ?いちを一人暮らしを…
佐紀:ふうん…ではもう一つ。君は何故理也をかまうのかな?
池田:…なんでだろう…理屈じゃなくて…何ていいのかな…ただいつも気になって、ほっておいたらいけない気がするんです。
佐紀:じゃあ、君さ、家事はできる?
池田:…は?家事…ですか?なんか話のよくとぶんだ…
佐紀:何か言った?
池田:…いいえ…大抵のことはできますけど…
佐紀:それは好都合。君も知っていると思うが、理也は今一人暮らしだ。ハウスキーパーを入れているんだが、食事のほうはできとうてね。
池田:はぁ…
佐紀:そこで提案だ。アルバイトしないか?成川家の住み込み家政夫。
池田:えっ?
佐紀:理也の身の回りの簡単な世話をしてくればいい、後は理也のことは心配でたまらない僕のために、理也の動向を報告すること。それで僕のポケットマネーから週8万出す、どうだい?
池田:週8万円?
佐紀:うん〜割のいいバイトだと思うよ。どうする?
池田:(あいついつも一人で、誰もいない家にいるんだよな…金も魅力だけど、それよりも…)やります。やらせてください。
香坂:…よう。
理也:…香坂先輩?あの…さっきはどうも。あなたに助けてもらったことになるのかな…
香坂:何が?
理也:演奏の前です。…あのままだったら、緊張なあんまり上手く出来なかったかもしれない。礼を言います、ありがとうござ…あっ…
香坂:あれがあんたの鍵の男?見たんだ。外で、あの大学生ぽい男だろう?
理也:…あっ…な…何を…
香坂:相手…間違えんなよ。
理也:ネクタイを放してください。
TRACK 04
池田:うわあ〜でっか。ここにずっと一人でいたのか?(今日から理也の家に住み込むことになった。これは佐紀さんの強引な提案で、正直理也が納得してるかわからない。というのも、演奏会の後、佐紀さんと理也と俺で食事をした時、佐紀さんはこう言った——)
佐紀:理也、来年をめどにNew Yorkに留学してもらう。理也もそのつもりでいて欲しい。
理也:え?でも…
佐紀:おじさんと一緒に住むのが嫌なら、寮住まいだっていい。君はおじさんの手の届く範囲に戻るのが嫌なんだろ?でもねぇ、この世界ではどの音楽家に教えを受けたか、誰の門下で、どいうコネクションがあるかが重要なの。日本にいたって、どうにもならないよ。わかってるでしょう?
理也:…あっ…
佐紀:第一さ、君一人で何ができるの?家を出て、学校もやめて、職探しでもしてみる?君みたいな何もできないお坊ちゃま誰も雇わないと思うけど。
理也:…わかってます。
池田:(理也は消え入りそうな声でそう言うと、青い顔をして、それっきり黙りこんでしまった。俺としては、少しでも何かしてやりたい。一人で何もかもかかえこまないように…)
理也:何だ?あんたマジで来たの?
池田:…あ…あっちじゃないんだ…
理也:何だよ、あっちじゃないって、俺だと不満かよ?入りたいなら勝手に入れば…
池田:…ホントでけー家…
理也:あんた、マジで俺んちに住む気?
池田:あぁ。俺の仕事内容を聞いてる?掃除と炊事と…洗濯機はどこ?
理也:ぷい…知らないっ!
池田:おいおい、俺寝る時やどの部屋使ったらいいんだ?
理也:さあねっ。俺には関係ないもん。あんた、あいつの世話に来たんだろ?
池田:…お前って、時々ホント子供みたいなこと言うよな。
理也:何?!
池田:どっちだって変わんないだろ。変な区別してないし。とりあえず、俺の部屋決めてくれよ。荷物運ぶから。
池田:明日学校だろ?何時に家出るんだ?
理也:学校?行かないっ。だって俺、バイオリンなんてできねぇもん。行ったってしょうがないじゃん。とにかく行かない。
池田:…マジかよ…
池田:…何だ?ホント猫みたいだな…勝手に俺の寝床にもくりこんできて…まぁ、あったかいからいいか…おい待て!何で理也が…?あっ!ギャーっ!おっ、お前っ何でここで寝てんだ?
理也:…るっせぇなぁ…もう…
池田:コラ!布団にもくって…また寝んな!
理也:うるせぇなぁ…
池田:何でここにいるんだ?
理也:昨日の夜、ちょっと寒かっただろう?ベッド冷たかったんだよ。
池田:普通無断で人の布団に入ってこねぇだろ!さっさと学校行く用意しろ!朝メシ作るから!
理也:…はいはい…
池田:ふうん…ったく!でも何で俺もこんな動揺してんだ…猫か一匹布団に入ってきたようなもんなのに…
池田:理也!速くしろ!遅刻するぞ!お前っ…まさかネクタイも結べない?
理也:…うん。いいじゃん、これで。
池田:ダメだ、そんなの!こっち来い!(…首細せえ…)…お前っ、首んこと…
理也:あぁ。バイオリンだこ。あいつ持ち方変だから。鎖骨んとこにもあるけど。見たい?
池田:…は…できたぞ、メシ速く食え…食ったら送ってくんから。
理也:いいよ、ガキじゃないし。行くってちゃんと。じゃねぇ。
池田:わかった、行ってらっしゃい。…あぁ、ほら、牛乳飲んでけ。
理也:(学校なんて行ってられっか。どっかでサーボれっと。
池田:(まずは理也のそばにいてやろうとやって来て訳だけど、前途多難かもしれない…あ…疲れた…)
杉浦:香坂、こんな所でサボっってたの、三田先生探してたよ。
香坂:ふうん〜
杉浦:(香坂…今一年の教室の方見てた…)なるちゃんなら、休みみたいだよ。演奏会の次の日から、ずっと休んでる。
香坂:…へえ。
杉浦:…ねぇ、香坂ってさ、ホントはなるちゃんのこと好きだよね。
香坂:…は?
杉浦:子供みたいな意地悪するくせに、いっつもなるちゃんのこと目で探しちゃってんだから。…なるちゃん、あんたに憧れてるのよ。
香坂:それは知ってる。
杉浦:だったらわかるでしょう?優しくしてあげて欲しいの、あの子に。…あんたに言っていいのかわかんないけど…私、聞いちゃったの、演奏会の日、控室で…
香坂:何を?
杉浦:…なるちゃん…二重人格…だんたって…
香坂:え?
杉浦:子供の時に虐待を受けたせいで、そんなったのかもって…嘘みたいとか思うけどさ、でも…もしそうだとしたら、なるちゃんの不安定さや、時々見せるおかしな言動の訳がわかる気もする。あ…あれは別人格のやったこのなのかなって…
池田:成川家にやって来て数日に過ぎた。日を重ねれば重ねるほど、理也のメチャクチャさは増してきて…
理也:篤志!篤志!シャンプーないよ!シャンプーどこ?
池田:…まっぱだか!何か着て来い!頼むから!(あのあけすけさに、どう接していいのか…俺は疲れていた。そして、ついに…)
理也:…池田さん…
池田:…理也…?
理也:…僕のこと、嫌いですか…?
池田:あれ?白の迷い猫のほうだ…
理也:池田さん…僕のこと…やっぱりあっちのほうが…
池田:ばか…どっちでも変わんねって言ったじゃん…ほら…理也…
理也:…あっ…篤志…俺…
池田:…あれ…黒に戻ってる?……!俺、何っち夢見てんだ…黒はメチャクチャだし、白は全然出てこないし…ただそばで見てるだけだけど、それ際も俺このさきやっていけんのかな…
(RRRR…)
池田:はい、成川です。
佐紀:Hello,How are you?I'm fine,thank you.
池田:(…自分で聞いて自分で答えちゃってる、この人…)
佐紀:佐紀です、池田君?
池田:…あっ…佐紀さんですか?
佐紀:Yes〜根本に頼んで、封書を送らせたから、僕、今週の金曜にアートホールで演奏するのね。その封書の中に、コンサートのチケットが入ってるから。どう?来れそう?
池田:そういうお話だったらぜひ…
佐紀:そう。って理也は今どんな状態なの?送ってもらったメールには別人格になってるって書いてあったけど。
池田:はい、まだ別人格のままで…
佐紀:そう…別人格たってすぐにわらるの?僕でも?
池田:…はい、絶対に。
佐紀:ふうん〜僕も様子を見に行きたいとは思ってるんだけど…なにぶんステージ前で忙しくてね。
池田:じゃあ、理也を電話に出しましょうか?
佐紀:いや、コンサートの日僕の控室に連れてきたよ。そうだ、それがいい、それが一番合理的だ。では決まりだ。じゃあ僕は忙しいから、これで。
TRACK 05
女A:今夜は成川佐紀は出るんだって。
女B:ぜかいはチケット取れなかったから。
池田:佐紀さんのコンサート当日、この日までに、理也が白になっていてくれと祈ったが、ダメだった。当然黒の理也はコンサートには行きたくないとごねん。帰りに食事をおごると食べ物てつって、やっと会場まで連れて来た訳で。
佐紀:よく来たね、僕のかわいい理也。さぁ、よく顔見せておくれ。
理也:離せよ!あつっくるしい!
佐紀:おや珍しい、理也がこの僕を拒むなんて。
根本:…佐紀さん、理也君はいつも拒んでますけど…
佐紀:そうだっけ?ところで、池田君。
池田:…はい。
佐紀:ご苦労だったね。ありがとう。
池田:…いえ。
佐紀:じゃあ、理也、来てくれたから、ご褒美をあげようね。何がいい?
理也:マジ?ハンバーガー!ジャンくフード大好き!
佐紀:そんなのでいいのかい?
理也:うん、コンサートの後、篤志にもおごってもらうことなってるんだ。ねぇ、篤志?
池田:…やさがりて助けてます。…あの、俺たちはこれへんで失礼します。
佐紀:そう?じゃあ僕のコンサート楽しんで行ってくれたまえ。
池田:…はい。じゃあ、頑張ってください。
理也:篤志、俺しっこ。
池田:…トイレ?もうあんまり時間ないぞ?
理也:行きたいんだもん。行く。
池田:戻ってこないつもりじゃないだろうな?
理也:…なにそれ?かんじわる。
池田:ホントに戻ってくるんだろうな…
佐紀:…根本、どう思う?
根本:確かに普段の理也君からは考えられないですよ、あの態度…
佐紀:ふうん…多重人格だなんて、あんまり信じてなかったけど、こうはっきり見せつけられちゃうとなぁ…
根本:ですね…
佐紀:何の問題解決もなく、あんな状態のままN.Y.に連れていってもいいものか…とか思っちゃうねぇ。この僕ですら…
根本:成川先生に何て報告するんです?
佐紀:どうせ言っても信じないでしょう、おじさんは。…まぁ、ちょっと様子を見ようよ。僕らには理也の本当の望みなんて何ひとつわかっちゃいないのかもしれないね。
アナウンサー:まもなく、開演五分前です。御来場の皆様、どうぞお席について、お待ちくださいませ。
香坂:バカじゃねぇのか、俺は…俺はうんざりしていた、なんとなく続けてきただけのバイオリンに夢中になれるはずもなく——そんな時、成川入学して来た。初めてあいつの奏でるメールを聞いて時、俺はただ圧倒された。あの日から、成川のことばかり考えている——今も成川佐紀のコンサートに来るは、あいつには入るなんて思い込んで…成川?
理也:…げっ…香坂…?(香坂に会っているのはいつもあいつのほうだ。香坂もたぶん、俺のことは知らないはず。でも…何するかわかんないんだもん、こいつ。なんとかここから逃げなきゃ!)俺…じゃない…僕…そろそろ席に…ぎゃ…
香坂:何で逃げるの?俺とは話したくないってわけ?
理也:…やっ…手…離し…
香坂:ダメだ。離さない。あんたさ、俺に構われるの嫌だった?でもあんた一度だって本気で俺のこと拒んだことなかっただろ。
理也:え…(知らねえよ!)
香坂:嫌だったら普通俺の家までわざわざ来ないよな。今になってその態度はないんじゃねぇの。
理也:…あんたさ、何で勝手に決めつけんの?こっちが何も言わないうちにわかったようなこと言うのってどうだよ!
香坂:あいつがいいのか?
理也:…はあ?
香坂:演奏会の日に来てたやつだよ。あいつにもやらせたのか?
理也:何言ってんの?何もあるわけないだろ!
香坂:鍵持ってただろ?それはそういうことじゃ…
理也:ない!ないったらないっつの!何で俺があんなヘタレと!
香坂:じゃあ、あの男とは何でもないって言っていいんだな?
理也:う…うん…(ヤッバイ…何だけまずい状況に…)
香坂:覚えてるか?あんたが高校に入学してきて、いっつも俺のこと意識してた。すれ違えば目が合ったし、呼べば必ず顔をあげた。
理也:(こいつ、何言い出すつもりだよ!)
香坂:そんなあんたのことはわかってて、そっけなくしたこともあった。悪かったよ。でもいつまでもあの鍵を持っているあんたを見ていると…成川にとって、あの日のことはもうなかったことになってるのか?
理也:(なにそれ…香坂って、遊びじゃなくて…あいつにマジだったとか…?)あんたなんか大嫌いだ!あんたの人を見下してるみたいな態度が嫌だ!こっちが大人しくしてるから、何でも言うこと聞くとか思ってんだろ!あんたに支配されんのなんてごめんだ、死んでもやだね!
香坂:何だと?
理也:いいか、あんたがあいつのこと好きだかどうか知らないけど、そんなの俺には関係ない!
香坂:もしかしてお前…別人格かい?
理也:今気が付いたんだ。悪いけど、俺はあんたの思い通りになんてならない。あいつと俺同じように扱おうったって無理だから。俺はあいつに関わるやつみんな大嫌いなんだよ!
香坂:…ガキだな、お前。もう一人を意識して気あって。
理也:じゃあ、あんたはどうなんだよ!…あんた初めてバイオリンで負けたと思ったんだろう?こんな年下のチビにさ!それをセックスで組み敷いて、悦に入りたいんだろ!負け犬!
池田:…なっ…何するあんた!
理也:…あっ…篤志…何で来たんだ?
池田:何でって…演奏が始まても席に戻って来ないからにきまてんだろ!
香坂:…こいつと一緒だったって訳か?あんたはなり川の何?
池田:…何って…そんなこと聞かれる筋合いないだろ。
香坂:…あっそ、じゃあ先に言っとくけど、そいつじゃないほう…俺、あれと寝たから。
池田:…え?
香坂:俺のものに手出さないでくれる。
池田:…理也、ホントなのか?お前が前言ってた話…いや、嘘だろ?あいつに限って…
理也:あいつに限って…だったら何だってんだよ!あいつが何しようと俺に関係ないだろ!あいつのこと俺に聞くな!
池田:…あっ…理也っ…!
池田:…待てってば!…本当なのか、あの話?もしかして無理やりとか?
理也:何言ってんのあんた!
池田:じゃあ…先のやつのこと好きで?
理也:何と言えばわかるんだよ!あいつがどう思ってるんかなんて知らねぇよ!俺、あいつの話されんのが死ぬほど嫌いだ!俺がここにいる限り、あいつなんてこの世のどこにもいないのと一緒だろ?
池田:…理也…
理也:俺はあいつの全てを知ってるけど、あいつは俺の何も知らない…それって俺のほうが本当の理也だってことじゃないのかよ!…篤志、俺と寝よ?俺の体だもん、俺の好きなようにしていいはずだろ?
池田:…な…何言ってんだお前…
理也:俺、あんたの言う通りするよ。ダメ?
池田:……
理也:…わかった。…いいよもう…あんたには頼まねぇ!篤志のヘタレ!
池田:…おい、待てって!
理也:離せよ!別にいいんだ!相手なんて誰だって!あんたはいつだって“いい人”でいたいんだ!そいうの偽善者って言うんだよ!
池田:…わかった。お前の望み通りにしてやるよ。
理也:…え…?
TRACK 06
池田:…ほら、入れよ。
理也:…ん…
池田:理也…
理也:…ん…あ、…
池田:怖じ気づいた?
理也:…違う…
池田:そう。じゃあ…服、脱がないとな。…そんなつらそうな顔するなよ、自分から誘ったんだろ?(…何だろう?その感じ…理也とこんな形で、こういうことをするって思ってもみなかった。)
理也:…あ、篤志…いいって…やだ、それ…触んなくていいから、俺の…乱暴にしていい…あんたの好きにしていい…
池田:…なんで?理也のいくとこ見たい…
理也:ダメだって…ダメ…ほんとにっ…や…っ…あ…
池田:理也…腰、上げられる?うつぶせになるかそれとも。
理也:…大丈夫…
池田:じゃあ…ちょっと、我慢してな…
理也:…ん…
池田:…痛い?平気?
理也:…いい…平気だってば…
池田:…理也、大丈夫か?理也…理也…(ずっと固く目を閉じて、俺が名前を呼んでもお前がこっちを見ようともしない。お前は本当にこんなことしたかったのか?)やめよう。
理也:…何で?俺、なんか悪かった?それども、やっぱやだった?俺としたくない?
池田:違うっ!俺はさ、理也のこと弟みたいに思ってたつもりだったんだ。けど…理也が学校の先輩としたって聞いて、すげぇもやもやした。今まで知らなかった理也の一面を見て、ショック受けたっつか…結局理也のことどう見たらいいのか自分でもわかってなかったんだと思う。でも今日始めて気づいた。理也、お前のこと、好きだよ。
理也:…えっ…
池田:だから、好きな子とこういう形でいいかげんなことしたくない。…今、理也はやけになってるだけだろ?いいかげんに扱われてるように感じて…わざわざ自分を痛めつけっただけでさ。
理也:…あんた…何言ってんの?
池田:理也…俺は理也のこと好きだけど、理也は俺のこと好きじゃない。利用したかっただけだ。だから、今日のことはなかたことにしよう。理也の気持ちが落ち着いたら今日のことは間違いだったってわかる。無茶なことしたって。今日はもう寝な。ここで寝ていいから。俺リビングで寝るよ。…お休み、理也。
理也:…ばっかじゃねぇの、あんた!!
池田:朝だぞ、起きろ。お前今日学校あるんだろ?
理也:…池田さん…
池田:こら、また寝るなって…理也!
理也:…僕…何でこんなところで寝て…なっ何で池田さんがここに…?
池田:(…やられた!人格が変わってる!ショック与えないようにしないと…)この前の日曜だったかな。ほら、理也の演奏会の後、佐紀さんと約束しただろ、家政夫バイトするって。
理也:…あ…あれからどのぐらい?
池田:十日。
理也:え…十日かも…僕、全然覚えてない…今までこんな長い間、記憶なかったことなんて…
池田:(俺は最低だ…こっちの理也の意識や記憶がないのを知ってて、ゆうべあんなことするなんて…
理也:…どうして…どうしてあなたがここにいるのか?どうして僕にかまうのかわからない…
池田:…だからそれは…
理也:佐紀さんと約束したから?バイトだから?それだってここまでする必要なんて…
池田:…理也…
理也:…僕、学校行きます。
池田:待てよ、大丈夫か?メシは?
理也:いいです。あなたが側にいるのが怖い。自分がどんどん弱くなりそうで…あなたに甘えたくないんです。(恥ずかしい…恥ずかしい…そうしようもない所を見られた…弱くて、みっともない所を…)
先生:成川君、おはよう。
理也:…あ、先生、おはようございます。
先生:ちょっといいかな?
理也:何でしょうか?
先生:よかった、今日は来たんだね。ところで、成川先生に頼まれていた君の推薦状、作ってやるから、留学のための。
理也:推薦状…ちょっと待ってください。留学はまだ決まった訳じゃ…
先生:そうなの?成川先生から学校の方に正式に申し出てこられたけど。
理也:(…そんな!佐紀さんは来年を目とに留学の準備を進めると言ったのに…お父さんは僕の留学を勝手に決めてたこと…)
先生:成川先生は渡米なさる時当然君のことも連れて行くつもりだったと聞いてるよ。でも君が嫌がったから少し様子を見るこのになって。6月にも留学の話は出ただろう?あの時は、君が指を切ってダメになったけど。
理也:…父に…確認を取ってもいいでか?
(RRRR…)
理也:あ、理也です。
母:あら、理也さん?
理也:お母さん…あの、お父さんは…
母:あなたずっと学校休みしてたんですって?お父様本当に怒ってらして…
理也:…えぇと、それはすみません。…お父さん…いますか?
母:お父様に?
父:理也だと?話すことなどない!一年だぞ?一年も猶予をくれてやったんだ、何が気に入らん?反抗なぞしおって、あれは俺の所有物だ!俺の作品てあればいいんだ!能無しめ!
理也:…
先生:成川君!
香坂:おい、無視かよ。
理也:…いえ、考えことを…今路頭に迷ったら、一人で生きてけるか考えてしました…なんか先輩と会うの久し振りですね。
香坂:…ん?昨日会っただろ?成川佐紀のコンサート会場で。
理也:えっ?…あ、あぁ、やだな…何言ってんだろ僕…
香坂:(昨日とは人格が変わってる…いつもの成川だな。)千円返せ。昨日貸してやっただろ。
理也:えっ?あっ…あ、はい。
香坂:嘘。貸してねぇ。あんた覚えてないんだろ、昨日のこと。待てよ!
理也:…やだっ…自分でも訳わかんないのに…そんな試されるようなことされたくない…
香坂:成川…黙ってろ。
理也:…僕、いろいろなこと覚えだせないのとか…留学のこととか、頭ごちゃごちゃしてて…
香坂:無理に思い出さなくたっていい。焦ったってしかたないだろ。(何にもわかってないんだな、あんたが俺にどんな言葉を吐いたか。そのあんたを俺がどう扱おうとしてるのか。自分でも信じられないくらい、残酷な気持ちになる。成川をめちゃくちゃにしたい!)たいしたことじゃない、全部。
理也:先輩…
佐紀:どういうこと?家政夫やめたいって。
池田:いえ、家政夫は続けます。住み込みやめたいってだけで。
佐紀:まさか理也におかしなことしたりしてないだろうね?
池田:…は…な、何すか?いきなり…
佐紀:まあいいや。僕今晩N.Y.帰るんで。その前に一回顔出します。詳しいことは会った時に。
池田:はっ、はい。
佐紀:じゃあ。
池田:支えになってやりたいとは思いながら、なにもなかったことにしてずっと一緒にいれるほどわりきれてもいない。…それでも、好きだよ、理也。たとえ理也が俺の言葉を忘れてしまっても。
佐紀:久しぶりだね、僕の可愛い理也。
理也:…佐紀さん…
佐紀:しばらく見ないうちに大きくなって〜さあ、キスさせておくれ〜
理也:やめてください!
佐紀:おやぁ、何て連れない子だろう?成田に着くなり飛んできたのに。その態度はどうだい?
根本:佐紀さんが理也君にまず会いたいって言うので、直で来ちゃったんですよ〜
佐紀:根本、君は実に有能なマネージャーだ。
理也:(僕の従兄成川佐紀さんが、New Yorkを拠点に活動してピアニスト。今回は日本でコンサートがあるため、お目付け役の根本さんと一緒に僕の所にやってきた。)
佐紀:ねぇ、理也。今回の帰国はコンサートとは別に。もう一つ重要な目的があるんだ。
根本:ところで、理也君、今度桐峰学園の定例演奏会に出るんだってね!
理也:…あ…はい…根本さん。
佐紀:そうか。じゃあ、僕もぜひ行かせてもらうよ。
理也:…は…で、今日は僕に用があったんじゃないんですか?
佐紀:いや。とりあえずは御機嫌伺い。おじさんもおばさんもアメリカだろう?理也一人でいろいろ大変じゃないかと思ってね。
理也:いぇ…別に。お手伝いさんに入ってもらってるから。…それより来るなら来るで電話の一本くらい入れてください。
佐紀:ん?したよ、おとといの朝。理也電話に出たじゃない。
理也:…えっ…あ、…そう…でしたね…
佐紀:学校、楽しい?一人で日本に残ったこと後悔してない?
理也:…それ…お父さんに何か言われたんですか?様子見て来いとか。
佐紀:おや怖い顔!違うよ。僕が理也のこと心配でしかたないんだ。この手のひらの傷は?指の付け根を買ったナイフで切ったんだっけ?一人でいて、二度とこんなことしないって言いされる?君はバイオリニストとして一生食べてくつもりなんだろう?違うの?それ以外に君の選択肢はないはずだよ。
理也:…わかってます。
佐紀:…いい子だね。
理也:…あの…僕…お茶を入れて来ます。
根本:どうですか?理也君。
佐紀:全然普通じゃないね。僕は理也に電話なんかしてないもん。
根本:じゃ、鎌をかけたんですか?
佐紀:あぁ。普通だったら、電話なんかなかったって否定するでしょう?否定できないのはさ、自分の記憶にあやふやな所があるかだって。
根本:佐紀さん、本当にあの話進めちゃって大丈夫なんですかね?理也君が自分で自分の指を切ったのだって、父親の成川先生が無理やり留学させをしたから。
佐紀:ふう…おじさんちょっと大人気ないからなあ〜理也を思い通りにしないと気が済まないんだよ。でもねぇ、しかたないね。成川の一族は音楽家の家系だから。
根本:えぇ、成川先生も…著名なバイオリニストですし、理也君も小さいころから天才バイオリニストとして、将来を期待されていますからね。
佐紀:うん。他の選択肢はないの。あの子は成川では異端だから、結果を出すことでしか、この世界で居場所を得ることはできないんだよね。
女1:さよなら。
女2:さよなら。
杉浦:…なるちゃん?どしたの?何かボーっとしてなかった?
理也:杉浦先輩…(定例演奏会のバイオリン専攻代表は僕に決まった。香坂先輩が自ら辞退したからだ。)
杉浦:でもさあ…先生たちも嫌な感じだよね。香坂をなるちゃんの代役に立てるなんて。
理也:(僕が精神的に不安定なのを見越してのことだろう…当日になって、何かあったら困るから…)
杉浦:ねぇ、大丈夫?なんだかちょっと顔色悪いよ?疲れてるんじゃない?
理也:いえ…大丈夫です。(だんだんひどくなってる気がする。自分でもいつ記憶が飛んでるのかわからない…あの夜から、香坂先輩におそわれそうになった…あの夜からは…)
(理也:ちょっと…何を…?
香坂:あんた、もしかしなくてもこうゆうこと初めて?なら教えてやるよ。…あんたが知らないだけで、バイオリンなんかよりはまれることがあるってこと。)
香坂:どうも。
杉浦:ちょっと!香坂遅い!代役っていっても練習にはちゃんと来てって言ったのに!
香坂:来ただろうちゃんと。
杉浦:もう…あ、やだ!わたしたら楽譜教室に置いて来ちゃったよ。取りに行って来る。
理也:(あっ…杉浦先輩…この人と二人だけにしないで!)
香坂:ふう…
理也:あっ…
香坂:怯えるなよ。なぁ、鍵返して来いよ。
理也:(僕は池田さんの家の合鍵をまだ持っていた。この鍵は返さなきゃ、逃げ場うつくっちゃダメだ、流されてちゃダメだ。今前を見ないと…)
理也:篤志!
池田:理也?(理也の中には、二人の理也がいる。今俺の前にいるのは兄の方。まるで真っ黒い野良猫だ。理也は俺の家の玄関先で左手を切って倒れていた。それ以来、俺はこいつらのことがほっとけないでいる。)こんな道端で待ってないで、部屋に入ってればいいのに、鍵あるだろ。
理也:これ返しに来た。もういらないから、それ。
池田:俺んちの鍵じゃないか?
理也:あんた、あいつの方と話しただろ?あいつに「いつでも来ていい」って電話で言った。俺、あいつとは話すなって言わなかったっけ?
池田:(あいつ?…あ、弟のことが…あっちは、真っ白い迷い猫だな。)…あれ?何であっちに言ってことお前が知ってるんだ?
理也:俺は全部わかってるんだ。俺じゃない間、あいつが何をやってるかも全部。
池田:確かに言ったよ。でもそれは、どっちか片方に向けて言っだんじゃない。ていうか俺、お前達のこと別々に分かて考えたことないぜ。
理也:あんたバカじゃない?俺は俺だし、あいつはあいつなの!一緒にされたくないって!何でわかんない訳?!あのねぇ、俺はあいつのやってることみんな知ってるけど、あいつは俺の存在すら知んないの!この意味わかる?何も知らないんだったら、あいつ別に要らないじゃん!
池田:…待てよ。何がそんなに気にいらないんだ?
理也:あんたって、あいつの方がいいわけ?
池田:あのな、俺はどっちがどうとか言ってないだろ?
理也:ふうん〜じゃあ面白いこと教えてやるよ。あいつさあ、男と寝たんだぜ。ちょっかい出されてる学校の先輩のお家にのこのこ行ってうっかり食われちゃいました。バッカじゃねぇの?
池田:…ふう、嘘だろ?その話。
理也:とにかく俺は、二度とあんたには会わない!あんたのやったことは裏切りだ、俺はそういうの許せるほど心広くないから!本当にここへはもう来ない!じゃあね!
池田:…まいったなぁ。(捨て台詞を吐いて通いの猫は帰って行った。実際のところ、食われた食われないの話も本当なのかどうか怪しいどころだし。…理也は、本当の気持ちと反対のことばっかり言っている。そんな気がする…)
TRACK 02
理也:演奏会の当日だというのに、鍵がない…記憶が飛んでいる間になくしたのが、それとも…怖い…自分でまたこんな…手を切るようなことしなら…切ったと、しばらく指に違和感があったし、練習に打ち込むことで、その不安を乗り越えてきたんだ——
(池田:もう一人が使う気になるかもしれないから、気休めだと思って、持っときな。)
理也:そう言って、鍵を渡してくれた池田さん——…池田さんは、僕の知らない何かを知ってるんだろうか…?誰にも頼れないくせに、本当は不安で怖くて…僕はこれからどうしたらいい…?…いや、今この瞬間僕は僕でいられた。あとはやるだけだ、やるしかない…他に僕の居場所はないんだから…
香坂:ふう…そろそろ会場に戻んないとまずいか…ま、成川の青い顔見れるだけで十分面白いんだけどな。
池田:なっ…あ、すいません、演奏会の会場ってどっち行けばいいんですか?今日桐峰学園の音楽科で演奏会があるって知ったもので。…あは、あの…別に怪しい者じゃ、知り合いの子が出るって学校のホームページに載ってたから聞いてみたんだけど、来ないで迷ったっつか…
香坂:ホールは大学の方。そっから道なりに行けば大学の方に出るから。
池田:あ、どうも…(演奏会来ちゃった…かなり場違いみたいだ…会って話せるかどうかわからないけど、何かの気かけになるかもしれない。今の子…音楽科の生徒かな、だよな…理也より上か…)
(理也:あいつさあ、男と寝たんだぜ。)
池田:相手は学校の先輩とか言ってよなぁ…あんなんだったりして…やたらめったらな美形だったし、ふ〜なんてな…
女:杉浦先輩?何やってんですか?ドアに耳をしあってて。
杉浦:成川佐紀だよ!あの成川佐紀が控室にいるんだって!
女:て中の話を盗み聞き…ふうん〜先輩でけっこうみいはですね〜
杉浦:しっしっ!
女:はいはい…
佐紀:先生方、お久しぶりです。今日はご挨拶がてら、うちのいとこ殿を見に参りました。
先生:あ…そうですか。どうぞお掛けんりください。さあ、マネージャーさんも寛いでくださいね。
根本:じゃ、お言葉に甘えて。
佐紀:ところで、理也は今どこに?
先生:外の空気を吸いに行ったとかで…もうすぐ戻ると思います。
佐紀:それはちょっとよかった。理也はいないうちに先生にお話が…
先生:…なんでしょうか?
佐紀:学校での理也の様子はどうなんですか?
先生:えっ…はぁ…調子のいい時と悪い時があって…いい時はまじめに学校に出てきて、きちんとしてるんだが…悪い時は無断で欠席したり粗暴な態度を見せたり…
佐紀:つまり…まるで多重人格のようだっと。
先生:えっ…えぇ…まぁ…
佐紀:うん…ありがとうございました、先生。
先生:…いぇ…
根本:そういうのって、子供の時の体験の根っこにあるとか言いますよね。何か心当たりあります?
佐紀:まぁ…おじさんも変わった人だしなぁ〜
根本:成川先生は?
佐紀:押さない理也にバイオリンの練習をさせてた時、理也が上手にひけないと、自分の弓でぶつんだって…
根本:弓で…?
杉浦:…!なるちゃんが?何かあたしまずいこと聞いちゃったかもん…
理也:杉浦先輩?何やってるんですか?
杉浦:なっ…なるちゃん!!なっ…成川佐紀が…来てるんだけど…
理也:ふう、佐紀さんが?そうですか、ちょっと行って来ます。
佐紀:おぉ理也!
理也:本当に来たんだ…来ないでいいのに…
佐紀:何を言ってるんだ!この天才ピアニストがわざわざ励ましに来たのに!
根本:ごめんね、理也君。迷惑だったら遠慮しないでそう言ってね〜
佐紀:何だと、根本?
先生:それにしても、成川先生もさぞお喜びでしょう?理也君が代表に選ばれて。
佐紀:…ん、ん——
理也:佐紀さん、はっきり言ってくれていいです。言ってください。
佐紀:…まぁ、僕も嘘をつくのがヘタでね。おじさんはおじさんで歯に衣着せないし…成川の血かな。学校の演奏会に出たって何ももならない、理也が精神的に不安定な子でなければ、とっくにデビューしてるのに無能な子だって。
根本:…佐紀さん!あの、理也君…
理也:…いいです、別に。あの人が何を言おうと…気にしませんから。
佐紀:ねぇ、理也。ステージが大きいか小さいかなんて大した問題じゃない。演奏家として生きるならば、どこでだって失敗はできないんだ。そして君は、そこに立ちために何人もの人間を蹴落としてきている。おじさんが「何にもならない」と言い捨てた、小さな演奏会だとしてもね。いいかい?君の精神状態がどうあろうと、常に結果が全てだ。君が失敗することを望んでる人間がいることを忘れるな。
理也:僕…失敗なんてしません。
理也:(自分でもわかってる、失敗はできない。こんな所で失敗する訳にはいかないんだ。)
香坂:…おい。
理也:香坂先輩…
香坂:おいおい…顔真っ青だぞ。
理也:…失礼します。
香坂:待ってよ。
理也:…なっつ、何…日等のほうつまんでるんですか!
香坂:緊張してるんの?
理也:…し…してません!
香坂:今度は何赤面してるんだ?ま、がんばんな。
理也:…えっ…頑張れだって…
TRACK 03
佐紀:ふうん〜悪くないんじゃない?
根本:驚いたなぁ、理也君のステージ初めて見ましたけど、えっらい美音ですね。
佐紀:うん、おじさん仕込みの技術は完璧と言っていい。何より音がいい。…音量はもうちょっと欲しい気もするけど。まぁ、まだ子供だしね。
根本:えぇ。
佐紀:気づいた?
根本:何ガですか?
佐紀:音程が全く狂わない、限りなく正確だ。ステージと練習室は違うんだ。ライトや体温のせいで弦の緩み方が変わる。そこまで計算して、音をとってるってわけ。まさに理也はおじさんの執念の結晶…よくここまで作り上げたもんだよ。…僕は興味があるんだ、このまま外の世界に出たら、理也はどうなるんだろうって。試してみるのは悪くない、それだけの価値が、あの子にはある。
根本:…佐紀さん、あの話を理也君に…
佐紀:もちろん今日にでも話すつもりだよ。僕は理也を迎えに来たんだから。
男:次の人理りようして。
生徒:はい!
先生:成川君よくやった!素晴らしい出来だった!
杉浦:なるちゃん?なるちゃん?何ぼう〜としてんの?
理也:…あっ…すみません…演奏が終わった終わったとって、緊張の一途切れちゃって…あの、でも左手がちゃんと動いたかどうか…
先生:そんなことはないよ!完璧だった!
理也:…そうですか…よかった…
女:あぁ、そうだわ。ついさっきあなたのことを訪ねてきた人がいて。どういう方なのかわからなかったから帰っていただいたんだけど。
理也:えっ…誰ですか?
女:大学生くらいの男の人…
理也:(池田さんか…?どうしてここに…)
理也:池田さん!
池田:理也?
理也:何で…どうしてここに…
池田:学校の演奏会があるって知って…上手なんだお前。俺クラシックとか全然わかんないからあんまり上手く言えないけど…今日は顔だけ見られたらいいと思ってたんだけど、後の席に座ったからさ。ステージ遠くてあんまり顔は見れなかった。ははは…
理也:…池田さん…
池田:…元気そうでよかった…じゃあな。
理也:待って!あっ…
池田:大丈夫か?
理也:あっ、はい…あの…鍵を…鍵をなくしてしまって…
池田:…あぁ、いいよ。あれはもう返してもらったから。
理也:…っ?僕がですか?
池田:あぁ。
理也:あの…僕返した覚えが…
佐紀:おお理也、ここにいたのか。
先生:探しましたよ。
理也:…佐紀さん…?先生…
先生:…ああ!君!一学期の時に理也君を学校から連れ出した男だろう!!
池田:げっ…あの時の先生…
佐紀:先生、この人知ってる人ですか?
先生:えぇ、この男と成川君は付き合いがあるようです。
佐紀:へえ…理也、ちゃんと紹介してくれないかな。
理也:うん…あの…池田篤志さん。以前ご迷惑をおかけしたことがあって…
佐紀:ふうん?僕は成川佐紀。理也の父方のいとこです。
池田:あっ…あの、池田です。
佐紀:ときに君、この後暇はあるかい?
池田:は?
佐紀:演奏会を終えた僕のかわいい理也のためにささやかな慰労会を催したい、ぜひ君も来てくれたまえ。
池田:…は…
理也:…佐紀さん!そっ…そんな勝手な…
佐紀:僕が決めたことだ、変更はない。理也、君は早く戻りたまえ。先生、後は頼みます。
先生:…あっ…はぁ、じゃ、成川君、ホールに戻ろう、さあ。
佐紀:ほら、理也、早く行きなさい。
理也:…はい。
佐紀:ところで池田君。
池田:…はい。僕は理也の父親から彼の様子を見て来るよういいつかっている。いわば保護者代理人だ。なので君に聞かなくてはならない、君は理也のどういう知り合いなんだい?
池田:…えっ?あぁ、実は、理也が俺の家の前で倒れてたんです…自分で指を切って…それで行きがかり上一晩泊めて、それからちょこちょこと…
佐紀:じゃあ君は、もう一人の理也を知ってる?
池田:もう一人…あぁ、はい。どちらかっていうと、そちらほうがなついてるっつうか…俺んとこ会いに来たりするし…
佐紀:なるほどね。…君は何してる人?
池田:あっ…大学生です。明慶大学経済部2年です。
佐紀:一人住まい?それともご両親と?
池田:えっ?いちを一人暮らしを…
佐紀:ふうん…ではもう一つ。君は何故理也をかまうのかな?
池田:…なんでだろう…理屈じゃなくて…何ていいのかな…ただいつも気になって、ほっておいたらいけない気がするんです。
佐紀:じゃあ、君さ、家事はできる?
池田:…は?家事…ですか?なんか話のよくとぶんだ…
佐紀:何か言った?
池田:…いいえ…大抵のことはできますけど…
佐紀:それは好都合。君も知っていると思うが、理也は今一人暮らしだ。ハウスキーパーを入れているんだが、食事のほうはできとうてね。
池田:はぁ…
佐紀:そこで提案だ。アルバイトしないか?成川家の住み込み家政夫。
池田:えっ?
佐紀:理也の身の回りの簡単な世話をしてくればいい、後は理也のことは心配でたまらない僕のために、理也の動向を報告すること。それで僕のポケットマネーから週8万出す、どうだい?
池田:週8万円?
佐紀:うん〜割のいいバイトだと思うよ。どうする?
池田:(あいついつも一人で、誰もいない家にいるんだよな…金も魅力だけど、それよりも…)やります。やらせてください。
香坂:…よう。
理也:…香坂先輩?あの…さっきはどうも。あなたに助けてもらったことになるのかな…
香坂:何が?
理也:演奏の前です。…あのままだったら、緊張なあんまり上手く出来なかったかもしれない。礼を言います、ありがとうござ…あっ…
香坂:あれがあんたの鍵の男?見たんだ。外で、あの大学生ぽい男だろう?
理也:…あっ…な…何を…
香坂:相手…間違えんなよ。
理也:ネクタイを放してください。
TRACK 04
池田:うわあ〜でっか。ここにずっと一人でいたのか?(今日から理也の家に住み込むことになった。これは佐紀さんの強引な提案で、正直理也が納得してるかわからない。というのも、演奏会の後、佐紀さんと理也と俺で食事をした時、佐紀さんはこう言った——)
佐紀:理也、来年をめどにNew Yorkに留学してもらう。理也もそのつもりでいて欲しい。
理也:え?でも…
佐紀:おじさんと一緒に住むのが嫌なら、寮住まいだっていい。君はおじさんの手の届く範囲に戻るのが嫌なんだろ?でもねぇ、この世界ではどの音楽家に教えを受けたか、誰の門下で、どいうコネクションがあるかが重要なの。日本にいたって、どうにもならないよ。わかってるでしょう?
理也:…あっ…
佐紀:第一さ、君一人で何ができるの?家を出て、学校もやめて、職探しでもしてみる?君みたいな何もできないお坊ちゃま誰も雇わないと思うけど。
理也:…わかってます。
池田:(理也は消え入りそうな声でそう言うと、青い顔をして、それっきり黙りこんでしまった。俺としては、少しでも何かしてやりたい。一人で何もかもかかえこまないように…)
理也:何だ?あんたマジで来たの?
池田:…あ…あっちじゃないんだ…
理也:何だよ、あっちじゃないって、俺だと不満かよ?入りたいなら勝手に入れば…
池田:…ホントでけー家…
理也:あんた、マジで俺んちに住む気?
池田:あぁ。俺の仕事内容を聞いてる?掃除と炊事と…洗濯機はどこ?
理也:ぷい…知らないっ!
池田:おいおい、俺寝る時やどの部屋使ったらいいんだ?
理也:さあねっ。俺には関係ないもん。あんた、あいつの世話に来たんだろ?
池田:…お前って、時々ホント子供みたいなこと言うよな。
理也:何?!
池田:どっちだって変わんないだろ。変な区別してないし。とりあえず、俺の部屋決めてくれよ。荷物運ぶから。
池田:明日学校だろ?何時に家出るんだ?
理也:学校?行かないっ。だって俺、バイオリンなんてできねぇもん。行ったってしょうがないじゃん。とにかく行かない。
池田:…マジかよ…
池田:…何だ?ホント猫みたいだな…勝手に俺の寝床にもくりこんできて…まぁ、あったかいからいいか…おい待て!何で理也が…?あっ!ギャーっ!おっ、お前っ何でここで寝てんだ?
理也:…るっせぇなぁ…もう…
池田:コラ!布団にもくって…また寝んな!
理也:うるせぇなぁ…
池田:何でここにいるんだ?
理也:昨日の夜、ちょっと寒かっただろう?ベッド冷たかったんだよ。
池田:普通無断で人の布団に入ってこねぇだろ!さっさと学校行く用意しろ!朝メシ作るから!
理也:…はいはい…
池田:ふうん…ったく!でも何で俺もこんな動揺してんだ…猫か一匹布団に入ってきたようなもんなのに…
池田:理也!速くしろ!遅刻するぞ!お前っ…まさかネクタイも結べない?
理也:…うん。いいじゃん、これで。
池田:ダメだ、そんなの!こっち来い!(…首細せえ…)…お前っ、首んこと…
理也:あぁ。バイオリンだこ。あいつ持ち方変だから。鎖骨んとこにもあるけど。見たい?
池田:…は…できたぞ、メシ速く食え…食ったら送ってくんから。
理也:いいよ、ガキじゃないし。行くってちゃんと。じゃねぇ。
池田:わかった、行ってらっしゃい。…あぁ、ほら、牛乳飲んでけ。
理也:(学校なんて行ってられっか。どっかでサーボれっと。
池田:(まずは理也のそばにいてやろうとやって来て訳だけど、前途多難かもしれない…あ…疲れた…)
杉浦:香坂、こんな所でサボっってたの、三田先生探してたよ。
香坂:ふうん〜
杉浦:(香坂…今一年の教室の方見てた…)なるちゃんなら、休みみたいだよ。演奏会の次の日から、ずっと休んでる。
香坂:…へえ。
杉浦:…ねぇ、香坂ってさ、ホントはなるちゃんのこと好きだよね。
香坂:…は?
杉浦:子供みたいな意地悪するくせに、いっつもなるちゃんのこと目で探しちゃってんだから。…なるちゃん、あんたに憧れてるのよ。
香坂:それは知ってる。
杉浦:だったらわかるでしょう?優しくしてあげて欲しいの、あの子に。…あんたに言っていいのかわかんないけど…私、聞いちゃったの、演奏会の日、控室で…
香坂:何を?
杉浦:…なるちゃん…二重人格…だんたって…
香坂:え?
杉浦:子供の時に虐待を受けたせいで、そんなったのかもって…嘘みたいとか思うけどさ、でも…もしそうだとしたら、なるちゃんの不安定さや、時々見せるおかしな言動の訳がわかる気もする。あ…あれは別人格のやったこのなのかなって…
池田:成川家にやって来て数日に過ぎた。日を重ねれば重ねるほど、理也のメチャクチャさは増してきて…
理也:篤志!篤志!シャンプーないよ!シャンプーどこ?
池田:…まっぱだか!何か着て来い!頼むから!(あのあけすけさに、どう接していいのか…俺は疲れていた。そして、ついに…)
理也:…池田さん…
池田:…理也…?
理也:…僕のこと、嫌いですか…?
池田:あれ?白の迷い猫のほうだ…
理也:池田さん…僕のこと…やっぱりあっちのほうが…
池田:ばか…どっちでも変わんねって言ったじゃん…ほら…理也…
理也:…あっ…篤志…俺…
池田:…あれ…黒に戻ってる?……!俺、何っち夢見てんだ…黒はメチャクチャだし、白は全然出てこないし…ただそばで見てるだけだけど、それ際も俺このさきやっていけんのかな…
(RRRR…)
池田:はい、成川です。
佐紀:Hello,How are you?I'm fine,thank you.
池田:(…自分で聞いて自分で答えちゃってる、この人…)
佐紀:佐紀です、池田君?
池田:…あっ…佐紀さんですか?
佐紀:Yes〜根本に頼んで、封書を送らせたから、僕、今週の金曜にアートホールで演奏するのね。その封書の中に、コンサートのチケットが入ってるから。どう?来れそう?
池田:そういうお話だったらぜひ…
佐紀:そう。って理也は今どんな状態なの?送ってもらったメールには別人格になってるって書いてあったけど。
池田:はい、まだ別人格のままで…
佐紀:そう…別人格たってすぐにわらるの?僕でも?
池田:…はい、絶対に。
佐紀:ふうん〜僕も様子を見に行きたいとは思ってるんだけど…なにぶんステージ前で忙しくてね。
池田:じゃあ、理也を電話に出しましょうか?
佐紀:いや、コンサートの日僕の控室に連れてきたよ。そうだ、それがいい、それが一番合理的だ。では決まりだ。じゃあ僕は忙しいから、これで。
TRACK 05
女A:今夜は成川佐紀は出るんだって。
女B:ぜかいはチケット取れなかったから。
池田:佐紀さんのコンサート当日、この日までに、理也が白になっていてくれと祈ったが、ダメだった。当然黒の理也はコンサートには行きたくないとごねん。帰りに食事をおごると食べ物てつって、やっと会場まで連れて来た訳で。
佐紀:よく来たね、僕のかわいい理也。さぁ、よく顔見せておくれ。
理也:離せよ!あつっくるしい!
佐紀:おや珍しい、理也がこの僕を拒むなんて。
根本:…佐紀さん、理也君はいつも拒んでますけど…
佐紀:そうだっけ?ところで、池田君。
池田:…はい。
佐紀:ご苦労だったね。ありがとう。
池田:…いえ。
佐紀:じゃあ、理也、来てくれたから、ご褒美をあげようね。何がいい?
理也:マジ?ハンバーガー!ジャンくフード大好き!
佐紀:そんなのでいいのかい?
理也:うん、コンサートの後、篤志にもおごってもらうことなってるんだ。ねぇ、篤志?
池田:…やさがりて助けてます。…あの、俺たちはこれへんで失礼します。
佐紀:そう?じゃあ僕のコンサート楽しんで行ってくれたまえ。
池田:…はい。じゃあ、頑張ってください。
理也:篤志、俺しっこ。
池田:…トイレ?もうあんまり時間ないぞ?
理也:行きたいんだもん。行く。
池田:戻ってこないつもりじゃないだろうな?
理也:…なにそれ?かんじわる。
池田:ホントに戻ってくるんだろうな…
佐紀:…根本、どう思う?
根本:確かに普段の理也君からは考えられないですよ、あの態度…
佐紀:ふうん…多重人格だなんて、あんまり信じてなかったけど、こうはっきり見せつけられちゃうとなぁ…
根本:ですね…
佐紀:何の問題解決もなく、あんな状態のままN.Y.に連れていってもいいものか…とか思っちゃうねぇ。この僕ですら…
根本:成川先生に何て報告するんです?
佐紀:どうせ言っても信じないでしょう、おじさんは。…まぁ、ちょっと様子を見ようよ。僕らには理也の本当の望みなんて何ひとつわかっちゃいないのかもしれないね。
アナウンサー:まもなく、開演五分前です。御来場の皆様、どうぞお席について、お待ちくださいませ。
香坂:バカじゃねぇのか、俺は…俺はうんざりしていた、なんとなく続けてきただけのバイオリンに夢中になれるはずもなく——そんな時、成川入学して来た。初めてあいつの奏でるメールを聞いて時、俺はただ圧倒された。あの日から、成川のことばかり考えている——今も成川佐紀のコンサートに来るは、あいつには入るなんて思い込んで…成川?
理也:…げっ…香坂…?(香坂に会っているのはいつもあいつのほうだ。香坂もたぶん、俺のことは知らないはず。でも…何するかわかんないんだもん、こいつ。なんとかここから逃げなきゃ!)俺…じゃない…僕…そろそろ席に…ぎゃ…
香坂:何で逃げるの?俺とは話したくないってわけ?
理也:…やっ…手…離し…
香坂:ダメだ。離さない。あんたさ、俺に構われるの嫌だった?でもあんた一度だって本気で俺のこと拒んだことなかっただろ。
理也:え…(知らねえよ!)
香坂:嫌だったら普通俺の家までわざわざ来ないよな。今になってその態度はないんじゃねぇの。
理也:…あんたさ、何で勝手に決めつけんの?こっちが何も言わないうちにわかったようなこと言うのってどうだよ!
香坂:あいつがいいのか?
理也:…はあ?
香坂:演奏会の日に来てたやつだよ。あいつにもやらせたのか?
理也:何言ってんの?何もあるわけないだろ!
香坂:鍵持ってただろ?それはそういうことじゃ…
理也:ない!ないったらないっつの!何で俺があんなヘタレと!
香坂:じゃあ、あの男とは何でもないって言っていいんだな?
理也:う…うん…(ヤッバイ…何だけまずい状況に…)
香坂:覚えてるか?あんたが高校に入学してきて、いっつも俺のこと意識してた。すれ違えば目が合ったし、呼べば必ず顔をあげた。
理也:(こいつ、何言い出すつもりだよ!)
香坂:そんなあんたのことはわかってて、そっけなくしたこともあった。悪かったよ。でもいつまでもあの鍵を持っているあんたを見ていると…成川にとって、あの日のことはもうなかったことになってるのか?
理也:(なにそれ…香坂って、遊びじゃなくて…あいつにマジだったとか…?)あんたなんか大嫌いだ!あんたの人を見下してるみたいな態度が嫌だ!こっちが大人しくしてるから、何でも言うこと聞くとか思ってんだろ!あんたに支配されんのなんてごめんだ、死んでもやだね!
香坂:何だと?
理也:いいか、あんたがあいつのこと好きだかどうか知らないけど、そんなの俺には関係ない!
香坂:もしかしてお前…別人格かい?
理也:今気が付いたんだ。悪いけど、俺はあんたの思い通りになんてならない。あいつと俺同じように扱おうったって無理だから。俺はあいつに関わるやつみんな大嫌いなんだよ!
香坂:…ガキだな、お前。もう一人を意識して気あって。
理也:じゃあ、あんたはどうなんだよ!…あんた初めてバイオリンで負けたと思ったんだろう?こんな年下のチビにさ!それをセックスで組み敷いて、悦に入りたいんだろ!負け犬!
池田:…なっ…何するあんた!
理也:…あっ…篤志…何で来たんだ?
池田:何でって…演奏が始まても席に戻って来ないからにきまてんだろ!
香坂:…こいつと一緒だったって訳か?あんたはなり川の何?
池田:…何って…そんなこと聞かれる筋合いないだろ。
香坂:…あっそ、じゃあ先に言っとくけど、そいつじゃないほう…俺、あれと寝たから。
池田:…え?
香坂:俺のものに手出さないでくれる。
池田:…理也、ホントなのか?お前が前言ってた話…いや、嘘だろ?あいつに限って…
理也:あいつに限って…だったら何だってんだよ!あいつが何しようと俺に関係ないだろ!あいつのこと俺に聞くな!
池田:…あっ…理也っ…!
池田:…待てってば!…本当なのか、あの話?もしかして無理やりとか?
理也:何言ってんのあんた!
池田:じゃあ…先のやつのこと好きで?
理也:何と言えばわかるんだよ!あいつがどう思ってるんかなんて知らねぇよ!俺、あいつの話されんのが死ぬほど嫌いだ!俺がここにいる限り、あいつなんてこの世のどこにもいないのと一緒だろ?
池田:…理也…
理也:俺はあいつの全てを知ってるけど、あいつは俺の何も知らない…それって俺のほうが本当の理也だってことじゃないのかよ!…篤志、俺と寝よ?俺の体だもん、俺の好きなようにしていいはずだろ?
池田:…な…何言ってんだお前…
理也:俺、あんたの言う通りするよ。ダメ?
池田:……
理也:…わかった。…いいよもう…あんたには頼まねぇ!篤志のヘタレ!
池田:…おい、待てって!
理也:離せよ!別にいいんだ!相手なんて誰だって!あんたはいつだって“いい人”でいたいんだ!そいうの偽善者って言うんだよ!
池田:…わかった。お前の望み通りにしてやるよ。
理也:…え…?
TRACK 06
池田:…ほら、入れよ。
理也:…ん…
池田:理也…
理也:…ん…あ、…
池田:怖じ気づいた?
理也:…違う…
池田:そう。じゃあ…服、脱がないとな。…そんなつらそうな顔するなよ、自分から誘ったんだろ?(…何だろう?その感じ…理也とこんな形で、こういうことをするって思ってもみなかった。)
理也:…あ、篤志…いいって…やだ、それ…触んなくていいから、俺の…乱暴にしていい…あんたの好きにしていい…
池田:…なんで?理也のいくとこ見たい…
理也:ダメだって…ダメ…ほんとにっ…や…っ…あ…
池田:理也…腰、上げられる?うつぶせになるかそれとも。
理也:…大丈夫…
池田:じゃあ…ちょっと、我慢してな…
理也:…ん…
池田:…痛い?平気?
理也:…いい…平気だってば…
池田:…理也、大丈夫か?理也…理也…(ずっと固く目を閉じて、俺が名前を呼んでもお前がこっちを見ようともしない。お前は本当にこんなことしたかったのか?)やめよう。
理也:…何で?俺、なんか悪かった?それども、やっぱやだった?俺としたくない?
池田:違うっ!俺はさ、理也のこと弟みたいに思ってたつもりだったんだ。けど…理也が学校の先輩としたって聞いて、すげぇもやもやした。今まで知らなかった理也の一面を見て、ショック受けたっつか…結局理也のことどう見たらいいのか自分でもわかってなかったんだと思う。でも今日始めて気づいた。理也、お前のこと、好きだよ。
理也:…えっ…
池田:だから、好きな子とこういう形でいいかげんなことしたくない。…今、理也はやけになってるだけだろ?いいかげんに扱われてるように感じて…わざわざ自分を痛めつけっただけでさ。
理也:…あんた…何言ってんの?
池田:理也…俺は理也のこと好きだけど、理也は俺のこと好きじゃない。利用したかっただけだ。だから、今日のことはなかたことにしよう。理也の気持ちが落ち着いたら今日のことは間違いだったってわかる。無茶なことしたって。今日はもう寝な。ここで寝ていいから。俺リビングで寝るよ。…お休み、理也。
理也:…ばっかじゃねぇの、あんた!!
池田:朝だぞ、起きろ。お前今日学校あるんだろ?
理也:…池田さん…
池田:こら、また寝るなって…理也!
理也:…僕…何でこんなところで寝て…なっ何で池田さんがここに…?
池田:(…やられた!人格が変わってる!ショック与えないようにしないと…)この前の日曜だったかな。ほら、理也の演奏会の後、佐紀さんと約束しただろ、家政夫バイトするって。
理也:…あ…あれからどのぐらい?
池田:十日。
理也:え…十日かも…僕、全然覚えてない…今までこんな長い間、記憶なかったことなんて…
池田:(俺は最低だ…こっちの理也の意識や記憶がないのを知ってて、ゆうべあんなことするなんて…
理也:…どうして…どうしてあなたがここにいるのか?どうして僕にかまうのかわからない…
池田:…だからそれは…
理也:佐紀さんと約束したから?バイトだから?それだってここまでする必要なんて…
池田:…理也…
理也:…僕、学校行きます。
池田:待てよ、大丈夫か?メシは?
理也:いいです。あなたが側にいるのが怖い。自分がどんどん弱くなりそうで…あなたに甘えたくないんです。(恥ずかしい…恥ずかしい…そうしようもない所を見られた…弱くて、みっともない所を…)
先生:成川君、おはよう。
理也:…あ、先生、おはようございます。
先生:ちょっといいかな?
理也:何でしょうか?
先生:よかった、今日は来たんだね。ところで、成川先生に頼まれていた君の推薦状、作ってやるから、留学のための。
理也:推薦状…ちょっと待ってください。留学はまだ決まった訳じゃ…
先生:そうなの?成川先生から学校の方に正式に申し出てこられたけど。
理也:(…そんな!佐紀さんは来年を目とに留学の準備を進めると言ったのに…お父さんは僕の留学を勝手に決めてたこと…)
先生:成川先生は渡米なさる時当然君のことも連れて行くつもりだったと聞いてるよ。でも君が嫌がったから少し様子を見るこのになって。6月にも留学の話は出ただろう?あの時は、君が指を切ってダメになったけど。
理也:…父に…確認を取ってもいいでか?
(RRRR…)
理也:あ、理也です。
母:あら、理也さん?
理也:お母さん…あの、お父さんは…
母:あなたずっと学校休みしてたんですって?お父様本当に怒ってらして…
理也:…えぇと、それはすみません。…お父さん…いますか?
母:お父様に?
父:理也だと?話すことなどない!一年だぞ?一年も猶予をくれてやったんだ、何が気に入らん?反抗なぞしおって、あれは俺の所有物だ!俺の作品てあればいいんだ!能無しめ!
理也:…
先生:成川君!
香坂:おい、無視かよ。
理也:…いえ、考えことを…今路頭に迷ったら、一人で生きてけるか考えてしました…なんか先輩と会うの久し振りですね。
香坂:…ん?昨日会っただろ?成川佐紀のコンサート会場で。
理也:えっ?…あ、あぁ、やだな…何言ってんだろ僕…
香坂:(昨日とは人格が変わってる…いつもの成川だな。)千円返せ。昨日貸してやっただろ。
理也:えっ?あっ…あ、はい。
香坂:嘘。貸してねぇ。あんた覚えてないんだろ、昨日のこと。待てよ!
理也:…やだっ…自分でも訳わかんないのに…そんな試されるようなことされたくない…
香坂:成川…黙ってろ。
理也:…僕、いろいろなこと覚えだせないのとか…留学のこととか、頭ごちゃごちゃしてて…
香坂:無理に思い出さなくたっていい。焦ったってしかたないだろ。(何にもわかってないんだな、あんたが俺にどんな言葉を吐いたか。そのあんたを俺がどう扱おうとしてるのか。自分でも信じられないくらい、残酷な気持ちになる。成川をめちゃくちゃにしたい!)たいしたことじゃない、全部。
理也:先輩…
佐紀:どういうこと?家政夫やめたいって。
池田:いえ、家政夫は続けます。住み込みやめたいってだけで。
佐紀:まさか理也におかしなことしたりしてないだろうね?
池田:…は…な、何すか?いきなり…
佐紀:まあいいや。僕今晩N.Y.帰るんで。その前に一回顔出します。詳しいことは会った時に。
池田:はっ、はい。
佐紀:じゃあ。
池田:支えになってやりたいとは思いながら、なにもなかったことにしてずっと一緒にいれるほどわりきれてもいない。…それでも、好きだよ、理也。たとえ理也が俺の言葉を忘れてしまっても。
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妖刀乱舞/cknti
鏡中面目:
声オタ。腐。風紀委員。
制服、繃帯、領帯、眼鏡、
大叔、年下、執事、忠犬控。
説教狂。腹誹狂。自言自語狂。
不分類会死星人。不比較会死星人。
不吐槽会死星人。没音楽会死星人。
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大叔、年下、執事、忠犬控。
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